血友病とは

学校・保育園などの先生方へ

【監修】医療法人財団荻窪病院 血液凝固科
長尾 梓 先生

血友病患児の受け入れは、経験のない現場では特に不安が大きいことと思います。

しかし、血友病はいくつかの留意点をふまえておけば、他の子どもたちと同じように過ごしても問題のない病気です。学校(集団)生活という貴重な学びと成長の場を、健康な子どもたちと同じように血友病患児がのびのびと経験できるよう、先生方のご理解とご協力をお願いいたします。

血友病について

血友病は「出血しやすい」病気ではなく、「出血したら血が止まりにくい」病気です。患児を過剰に保護する必要はありません。出血したらどうなるか、どう対処すればよいかを理解していただければ大丈夫です。最近では、ほとんどの子どもは出血の有無にかかわらず、出血が起こらないよう定期的に予防のための注射をしていますので、普段は他の子と一緒に、いろいろなことを経験させてあげてください1)

また当サイトの情報の他にも、学校・保育園などの先生方に、血友病について知っていただくことを目的に作成された小冊子があります。保護者の方に入手していただき、先生方の間で血友病に対する理解を共有していただくツールとしてお使いください。

事前の準備

  • 校長・園長先生、担任の先生、養護の先生だけでなく、できるだけ多くの先生方の間で情報と理解の共有をお願いします。
  • 患児の保護者と連絡が密にとれるよう、確実に連絡のとれる連絡先を教えてもらってください。
  • 主治医の連絡先や病院の場所も、確認しておきましょう。必要であれば、主治医に電話や面談で病気についての説明を受け、心配な点や不明点などを質問・相談してください。
  • かかりつけの病院が遠い場合、主治医や保護者と相談して、緊急時に連れて行く近くの病院を見つけておきましょう。
  • 患児が保育園や幼稚園、小・中学校に通うために何らかの支援が必要な場合、自治体によっては必要な支援(支援員や介助員の配置等)の提供が認められる場合もあるので、事前に確認してください。
事前の準備

学校/園での生活

  • 上履きをクッション性の良いものに変えるなど、多少の工夫で出血を防ぐことが可能です。
  • 他の子どもたちへは、病名や病気の内容を詳しく知らせずに、「血が止まりにくい体質」「関節が弱い」などの説明で十分な場合があります1)
  • 小学校高学年くらいになると、自分で注射ができる子がいます。薬を学校で保管していただけると助かります。また保健室など、学校で安心して注射ができる場所を確保してあげてください。
  • 体育や部活動は、原則としてすべて可能ですが、柔道や剣道、空手など格闘技に近いスポーツは保護者とよく相談してください。「受け身だけなら可」など、その子どもによってはできることがあります。また、関節や筋肉に出血があるときは安静が必要です。その場合、体育の授業のときは、何らかの役割を与えて参加できるよう配慮をお願いします1)
  • 中学・高校などの部活動で運動が激しくなり、出血が増えるような場合は、医師より運動を控えるよう指示が出る場合があります。
血友病患児の受け入れ

保健室などで市販薬を使う際の注意点

解熱・鎮痛薬(熱を下げるときや痛みを和らげるときの薬)、消炎鎮痛薬(炎症と痛みを鎮める薬)の中には血小板のはたらきを低下させる副作用があり、血友病患者さんが服用すると出血しやすくなったり、出血が悪化したりするものがあります。

内服薬について

  • 風邪薬や解熱・鎮痛薬は、「アセトアミノフェン」が主成分となっているものを選ぶようにしてください。
  • 非ステロイド性抗炎症薬の中でも、「アスピリン」「インドメタシン」を含むものは血小板のはたらきを阻害する力が強いので、特に使用を避けてください。
  • 服用させるときは、事前に主治医や保護者と相談するとよいでしょう。

外用薬について

  • 通常の外用薬(サリチル酸メチルなどを主成分とした貼り薬など)は、出血部位に積極的に使用されます。
  • 痛みが強い場合には、非ステロイド性抗炎症薬(ピロキシカムやジクロフェナク、インドメタシンなど)が配合されている軟膏やクリーム、テープ、パップ剤などを短期間、限定して使用しても問題はないといわれています1,2)
外用薬について

出血したときの対応

血友病患児が出血したときの補助的処置として「RICE(ライス)」と略される4つのケアがあります。軽度の出血のときはこれだけで止血できることも多く、また緊急時、病院へ運ぶまでの応急処置としても有効です。

RICE処置

  • Rest(安静)
    rice(安静)

    出血した場所を動かさないようにします。
    動いているよりもじっと安静にしているほうが、止血しやすくなります。

  • Ice(冷却)
    rice(冷却)

    出血した場所を冷やします。
    冷やすと血管が収縮するので、より止血しやすくなります。また、痛みを和らげる効果も期待できます。内出血した場所に、氷嚢(ひょうのう)をタオルに包んだものなどを当てます。長時間冷やし続けると、皮膚が凍傷を起こしたり、ダメージを受けてしまうので注意します。

  • Compression(圧迫)
    rice(圧迫)

    出血した場所を清潔なガーゼなどで押さえます。
    切り傷や擦り傷の場合は、清潔なガーゼなどを当てて出血部位を押さえます。関節や筋肉などの内出血の場合は、包帯をきつく巻いて圧迫します。鼻出血の場合は指で小鼻をつまみます。

  • Elevation(挙上)
    rice(挙上)

    出血した場所を心臓の位置よりも高く挙げます。
    例えば、膝や足などで出血が起こった場合は、仰向けになって足を丸めたマットの上など高いところに置きます。その姿勢をとると痛みが強くなる場合は無理をしないようにします。

また出血の部位ごとの処置は下記の通りです。まだ話すことが上手にできない乳幼児に関しては、様子を注意深く観察することが必要になります。

切り傷・擦り傷

小さな傷なら、消毒したあと圧迫したり冷やしたり(少し長めに)して、血が止まるようなら大丈夫です。大きなけがの場合は、血友病ではない他の子どもと同じです。病院へ連れて行くなどの対応をしてください。

あざ・こぶ

小さなものなら、圧迫や冷却で対応します。だんだん腫れてくるようなら、自分で注射できる子には注射をするよう促し、自分でできない幼児の場合は保護者に相談しましょう。

鼻血

軽いものなら小鼻をつまんで圧迫し、ワセリンや軟膏を塗った綿をしばらくの間つめて、出血が止まれば大丈夫です(ワセリンなどを塗らないと、綿が鼻粘膜にくっつき、取るときに出血を繰り返す恐れがあります)。
小鼻を圧迫しても口の中に出血が続くときは、保護者に相談してください。
鼻血を繰り返す子どもの場合は、抗線溶剤(内服薬)を服用するとよいので、処方してもらったものを学校(園)に保管しておきましょう。

関節内出血・筋肉内出血

注射が必要なので、自分で注射できる子には注射をするよう促し、自分でできない幼児の場合は保護者に連絡してください。体の中の出血は目に見えないので分かりにくいですが、次のような様子がうかがえたら注意が必要です。

  • 走っていた子が急に歩くだけになる、歩き方がおかしくなる、動かなくなる、立たなくなって座って遊ぶようになる、歩かないでハイハイを始める、片手しか使わなくなるなど、普段と違う動きをするようになる
  • 痛みを訴える
  • 関節や筋肉が腫れたり、膨らんだりしている、熱をもっている
  • その部分を触ったり、曲げたり伸ばしたりすると痛がる

頭を打ったとき

高い所から落ちたり、何かに強くぶつかったりして頭を強く打った場合は、すぐに保護者に連絡してください。意識がなくなったり、けいれんを起こしたりする場合に救急搬送が必要なのは、他の子どもと同じです。搬送の際には血友病であることを必ず伝えてください。緊急時の対応については、日頃から保護者や主治医と相談しておいてください。

保護者の方とのコミュニケーション

慣れないうちは、保護者との密な連絡が必要かつ重要になります。ケースごとに対処のしかたを相談するうち、だんだんとコツがわかってきて、自然に対応することができるようになりますので、保護者や主治医となんでも話し合える信頼関係を築いてください。さらに緊急時の対応について、保護者や医療関係者と救急訓練を行っておくと安心です。

保護者の中には、入学(入園)後に病気のことを伝える方もいるかもしれません。血友病患児の保護者の方は、入学(入園)にあたってさまざまな悩み、葛藤を抱えておられ、「普通に接してもらいたい」という思いからそのような方法を取ることもあるかと思います。そうした思いをご理解いただければ幸いです。

※基本情報、緊急連絡先を記載できるフォーマットを下記の冊子に記載しているので、ご利用ください。

1)石黒精ほか編:はじめての血友病診療実践マニュアル, 診断と治療社, 2012
2)白幡聡, 福武勝幸編:みんなに役立つ血友病の基礎と臨床(改訂3版), 医薬ジャーナル社, 2016

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