血友病とは
血友病をまなぶ
監修:地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立こども病院 血液腫瘍科
医長 小倉 妙美 先生
3つの補充療法
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出血時補充療法
ケガをして出血したときや、体の中で出血したときに止血するため、凝固因子を補充する方法だ。
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定期補充療法
ふだんの生活の中で、出血しないように、定期的に凝固因子を補充する方法だ。
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予備的補充療法
体育や遠足、部活など、活発に活動したり運動したりする前に、追加で凝固因子を補充する方法だ。
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補充療法とは?
血友病では、他の人よりもはたらいている血液凝固因子が不足している[不足している因子は、きみが血友病Aなら第VIII(8)因子、血友病Bなら第IX(9)因子だ]。それなら、不足している凝固因子を体の中に入れてあげれば、きちんと止血できるはず。補充療法とは、このように不足している凝固因子を体に「補充」してあげる治療法をいう。
輸注で補充される凝固因子の量
いつも輸注している凝固因子製剤の単位や自分の体重などを調べて、
下の計算式にあてはめて求めてみよう!
①はでドクターに確認した値を入れよう。 ②に入れる値は0.75〜1と人によって違うのでドクターに確認してみよう。
注意! 補充しても体の中の凝固因子は減っていく
ここで求めた凝固因子活性の値は、輸注した直後の「最大の値」であることに注意しよう。人によってこの値よりも小さくなることがあるし、凝固因子は体の中に入れるとしだいに減っていく性質がある。減り方は人によって、使っている製剤によって違うんだ。
補充療法の極意
自分の活動や出血のぐあいにあわせた凝固因子の量を体の中に確保する!
定期補充療法はもちろん大事だけれども、補充療法を極めるためには、「自分がどんな生活を送っているか、どんな運動をするかによって、ふさわしい量の凝固因子をふさわしいタイミングで体の中に確保する」、「出血したときは、出血のぐあいにふさわしい量の凝固因子を体の中に確保する」ということを知る必要がある。
ふさわしい輸注の量
活動の程度にふさわしい凝固因子の量(めやす)
通学で歩いているときと、部活で野球の練習をしているときでは、ケガのしやすさも、体の中での出血のしやすさも違うはずだ。だから、自分が普段どんな活動をしているのか、そしてその活動をするためには、どのくらいの凝固因子が体の中になければならないのかを知っておこう。
注意
同じ野球であっても、試合をしているのか、練習をしているのかで、出血のしやすさは違ってくる。また、同じ野球の練習であっても、人によって出血のしやすさは違ってくる。図はあくまでめやすであることに注意しよう。自分の普段の活動と、それにふさわしい凝固因子活性は、必ずドクターに確認することが大切だ。
自分の活動とそれにふさわしい凝固因子活性を知ろう!
一週間の中で自分がどんな活動をしているか、そしてその活動に必要な凝固因子活性をドクターに相談しながら書き出してみよう。
活動(例:体育)/月曜日 → 必要な凝固因子活性:◯%以上
出血のぐあいにふさわしい凝固因子の量(めやす)
注意が必要な出血の場合はすぐにしっかり止血できるよう、輸注する凝固因子の量が多くなるのは当然だね。ふさわしい量を知るためにはまず、どこで出血が起きて、どの程度の出血なのかを確認しよう。そして止血するためにどのくらいの量の凝固因子が必要なのかを確認しよう。ふだん定期補充療法で輸注している量で足りるかも確認してみよう。ふだん輸注している量では足りない出血の場合は、もう1本注射したり、すぐにまわりの人やドクターに相談することが大切だ。
出血の部位 | 出血の程度 | 必要な凝固因子活性 |
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関節内 | 軽度 | 20~40% |
重度(腫れや痛みが強いとき) | 40~80% | |
筋肉内 | 軽度 | 20~40% |
重度(腫れや痛みが強いとき) | 40~80% | |
腸腰筋(足のつけ根の奥の筋肉) | 80%以上 | |
口の中 | すぐに止血できない場合 | 20~40% |
舌・舌小体・口唇小体の出血、口唇裂傷による出血 | 40~60% | |
皮ふの下(皮下出血) | 軽度 | 輸注しないで様子をみる |
大きな血腫(タンコブ)、首・顔の血腫 | 20~40% | |
鼻(鼻血) | 軽度 | 輸注しないで様子をみる |
止血がむずかしい時 | 20~40% | |
尿(血尿) | 軽度 | 輸注しないで様子をみる |
改善しない時 | 40~60% | |
頭の中(頭蓋内出血) | 100%以上 | |
骨折 | 100%以上 | |
外傷(切り傷など) | 小さな切り傷 | 20~40% |
重度 | 100%以上 |
日本血栓止血学会, インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成委員会:インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン, 2013年改訂版より改変
ふさわしい輸注のタイミング
血液凝固因子は、体の中に入れてもしだいに量が減ってしまう性質がある。だから定期補充療法をしていても、輸注をする直前の凝固因子活性は低くなっているんだ。低くなっているときに部活などの「凝固因子が多く必要な運動」がかさなると、出血してしまう可能性がある。そのため凝固因子をいつ輸注するか、そしてどういうときに追加で輸注するか、ふさわしい「タイミング」を知っておくことが重要だ。
自分の補充療法のルールを決めよう!
タイミングや量は人によって違うから、ドクターとよく話し合って決める必要がある。自分は、いつ、どこで、どんな運動や活動をしているか、しっかりドクターに伝えて、自分だけの補充療法のルールを決めよう。
定期補充療法 → 輸注するタイミング(例:月曜日と木曜日)/輸注する量・その他
予備的補充療法 → 輸注するタイミング(例:水曜日の部活のとき)/輸注する量・その他
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定期補充療法は1日の中でいつしたらいい?
凝固因子の量が多いほど出血を予防する効果は高いので、活発に動く時間帯に凝固因子の量が多くなるといいよね。だから、一番いい輸注のタイミングをドクターに相談しながら決めよう。
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輸注をしたらなぜ記録するの?
輸注をしたら必ず記録表に記録する習慣をつけよう。どの製剤をいつ、どのくらい輸注したかを記録しておくと、何かあったときにドクターのカルテと同じように、貴重な情報源となるからだ。
RICE処置
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Rest(安静)
出血したところを安静にする。動くとかさぶたができにくくなるからだ。
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Ice(冷却)
出血したところを冷やす。冷やすと血管が縮み、早く止血できる。熱を吸収して、痛みを和らげることもできるぞ。
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Compression(圧迫)
傷口を清潔なガーゼなどで押さえておく。鼻血の場合は、小鼻を外から強く押さえておくのがポイント。鼻血のときは上を向くのではなく、うつむくことがポイント!
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Elevation(挙上)
出血したところを、心臓の位置よりも高くあげる。高くあげる姿勢をとると痛みが強くなる場合は、無理をしないようにしよう。