みんなの体験談

患者さんに聞きました:
Vol.1 こんなときどうしてる?
就職・仕事のこと

患者さんに聞きました:
Vol.1 こんなときどうしてる?
就職・仕事のこと

みんなの体験談

皆さんは就職する際に困ったことはありませんか?
自分にはどんな仕事が合っているのだろうか、
仕事を続けていくうえで血友病であることがハンデにならないだろうか、など、悩んだことはありませんか?
今回は、看護師として働いているAさんと、一般企業で法人営業をしているBさんのお2人から、就職のこと、仕事のこと、仕事以外のライフワーク、そして将来の夢などについてお話をお伺いしました。

聞き手

西田恭治先生
西田恭治 先生
(国立病院機構大阪医療センター 血友病科/感染症内科)

話し手

Aさん
Aさん(20代、血友病A・重症)
看護師として働くかたわら、患者会であるYHC(Youth Hemophilia Club)を主宰し、若い世代の血友病患者さんの支援も精力的に行っている。
Bさん
Bさん(30代、血友病A・重症)
携帯電話を扱う会社で働く、法人向け営業マン。
家族構成は、妻、男の子1人、女の子2人の5人家族。

2024年1月20日 リモートにて実施

就職先を決める際に悩んだこと、迷ったこと、心配だったこと

西田恭治先生
西田恭治 先生

Aさんは看護師をされていますが、仕事を決める際に迷ったことはありましたか?

Aさん
Aさん

看護師になろうと決めたのは中学生の頃です。私はやると決めたらやらないと気が済まない性分なので、迷いはまったくありませんでした。父の後押しも大きかったと思います。「自分のやりたいことをしろ」「病気であることのマイナスをプラスに変えることが大切」「血友病という個性をどう生かすかで自分の人生は変わる」といったことを常々言われていたので、将来を考えるときの支えになりました。
ただ、看護師の仕事は激務だろうと想像していたので、血友病である自分に務まるだろうか、という不安は少しありました。実際、看護師の仕事はこんなに体を動かすものなのかと驚きましたが(笑)、きちんと製剤の輸注をしているので出血したことはありません。関節が少し痛むこともありますが、そんなときは仕事の合間に輸注したり、少しだけ休んだりするようにしています。

西田恭治先生
西田恭治 先生

職場は血友病に対して理解はあるのですね。

Aさん
Aさん

はい。職場は医療従事者ばかりなので、私が血友病であることはみんなが知っていますし、理解もしてもらっていると思います。

西田恭治先生
西田恭治 先生

Bさんは就職の際に心配なことはありましたか?

Bさん
Bさん

私は法人営業をしたいと思ったときに、歩くことがすごく多いので、その仕事を本当にやっていけるか最初は不安でした。また、 血友病であることが採用にどう影響するかがわからなかったので、面接の際に血友病であることを伝えるかどうかは迷いました。でも、隠して内定をもらっても、入社したら会社も知ることになるのだから、初めから知っておいてもらったほうがよいと思い、就職活動の途中からは伝えるようにしました。自己注射をしていれば血友病ではない人と同じように生活ができることも説明したので、理解をしていただけたと思います。

西田恭治先生
西田恭治 先生

かつては、血友病のことを伝えにくいという社会の状況がありましたが、治療が進歩している今、隠す必要はないかもしれませんね。

Bさん
Bさん

あとは、私は小さな頃からずっとかかりつけの病院に通院していたので、就職して転勤になったときに、転勤先でも治療が受けられるのだろうかという不安もありました。しかし、主治医の先生に「日本のどこで生活していても治療は受けられるよ」と教えていただいたので、安心することができました。

西田恭治先生
西田恭治 先生

悩みや迷いもあったと思いますが、お2人とも、しっかりとしたお考えで就職活動を乗り切ることができたのですね。上司や同僚に理解してもらうという面では、就職活動のときに病気のことを伝えるというのも重要だと思います。一方で本来あってはならないことですが、会社によっては高額な医療費がかかる患者さんがいると自社の健康保険組合の予算を圧迫してしまう、と懸念される場合があります。これから仕事に就く若い人には、現実問題として就職活動で会社に伝えるかどうかは検討していく必要はあるかもしれません。

仕事中の出血や痛みなどの経験

西田恭治先生
西田恭治 先生

仕事をするとき、出血や痛みで困ったことはありますか?また、そのような状況になったとき、どのように対処していますか?

Aさん
Aさん

出血したら仕事に影響が出てしまうので、そうならないように製剤の輸注は定期的に行っていて、今までは 困ることはなかったですね。少し足が痛くなって、5分くらいの休憩をもらうこともありますが、それほど頻繁ではありません。これまで、出血や痛みのために仕事を休んだこともありません。

Bさん
Bさん

私は営業をしているので、外回りが多いんですよね。けっこう歩く仕事です。でも、Aさんと同じように、私も輸注は欠かさないようにしているので、仕事に支障をきたすことはこれまでありませんでした。まれに関節が痛むこともありますが、そんなときは少し休憩する、上司と相談して在宅業務に切り替える、などの対応をしています。

西田恭治先生
西田恭治 先生

治療を続けていれば困ることは少ないということですね。

Bさん
Bさん

出血や痛みに関することではないのですが、会社の健康保険組合から送られてくる医療費の書類を見て、治療のために「自分はこんなに医療費の負担をかけているのか」と悩んだことがあります。それを咎められたりしたことはもちろんないのですが、申し訳ない気持ちになり、輸注の頻度を少なくした時期がありました。その結果、出血が多くなり、休むことが多くなってしまったので、今はそうならないように治療を続けるようにしています。

西田恭治先生
西田恭治 先生

血友病は医療費助成制度の対象なので、患者さんは医療費のことをあまり気にしていないのではと思われがちです。しかし実はそうではなく、医療費がかかることを気にされている患者さんはたくさんいます。その気持ちはよくわかるのですが、だからといって、治療を控えていると、患者さんの生活の質は大きく損なわれます。治療をきちんと続けて、社会に貢献していくことが大切だと思います。

仕事以外での日常生活の過ごし方

西田恭治先生
西田恭治 先生

次に、仕事以外での日常生活の過ごし方について伺います。趣味やスポーツなど、夢中になっていることはありますか?

Aさん
Aさん

今、若い世代の血友病患者が交流するYHC(Youth Hemophilia Club)の活動を精力的に行っていて、それが私のライフワークになっています。全国の血友病の患者会にお伺いして、子どもさんにいろいろ教えてあげたり、親御さんたちと話をしたりするのですが、そうした交流が、若い世代の血友病患者の治療生活の役に立ったり、将来への希望を持てたりといったことにつながればとても嬉しいですし、私自身にとっても貴重な経験になっています。
また、体を動かすことも大好きで、野球やボーリングなどをすることが多いです。

Bさん
Bさん

私は、子どもと公園へ遊びに行ったり、サウナに行ったりすることが楽しみになっています。スポーツも好きなのですが、小さな頃に出血を繰り返したことがあったために、足関節の可動域が狭くなっていて、足首の動きが悪い状態なんです。 自己注射が怖くて、高校に入学するくらいまで自己注射をしていなかったので、スポーツをしては出血し病院に行く、ということを繰り返していました。今、歩くことに支障はないのですが、激しい運動は控えたほうがよいという状態です。でも最近、昔やっていたゴルフを再開したら、けっこう調子がよかったので、無理のない範囲で楽しんでいこうかなと思っています。
あと、結婚してからは行くことができていないのですが、海外旅行が好きだったので、また行ければいいなと思っています。

西田恭治先生
西田恭治 先生

かつては、血友病患者さんが運動するなんて考えられない、という時代もありました。お2人のように、日常生活を楽しめることは素晴らしいことですね。私の患者さんのなかにもサッカーをしている子どもさんは多いですし、卓球でインターハイに行きましたとか、ブレイクダンスをやっていますとか、皆さん思い思いに楽しんでいて、本当によい時代になったと思います。

結婚、家族計画

西田恭治先生
西田恭治 先生

次に、ご家族のことを伺いたいのですが、これについては、結婚されているBさんに聞きましょうか。結婚するときに悩んだことなどはありますか?

Bさん
Bさん

一番悩んだのは、やはり血友病が遺伝性の病気であるということですね。娘が生まれたら、孫が血友病として生まれてくる可能性があるので、どうすればよいのかということは悩みました。また、妻や妻の両親にもそれに対してどう思われるかということも心配でした。
主治医の先生からは、「お孫さんが生まれてくる頃には、血友病治療はもっと進歩しているだろうし、今だって、Bさんは普通の人と変わらない生活をしているでしょう?」と言われ、そう言われてみればそうだなと思いました。

西田恭治先生
西田恭治 先生

そうですね。血友病の治療選択肢は広がっていますし、治療法の進歩はこれからも続いていくでしょう。結婚や家族計画においても、血友病ではない人と同じように将来設計を描くのがよいと思います。

Bさん
Bさん

家族を持つときに悩みはありましたが、今は家族5人でとても幸せに暮らしています。

西田恭治先生
西田恭治 先生

家族を持つことに関して悩みを持っている方は多いと思いますが、一つの例としてBさんの経験も参考にされてはと思います。また、結婚や家族計画については奥様とそのご家族にも理解を得る必要があるので、主治医に相談してもらえればと思います。

将来の目標

西田恭治先生
西田恭治 先生

最後に、将来の目標について伺います。Aさん、Bさんはどのような将来を思い描かれていますか?

Aさん
Aさん

夢は二つあって、一つは看護師として成長し、病気と闘う多くの患者さんの支えになり続けたいと思っています。それは血友病に限りません。すべての患者さんが病気を克服して、その人らしい生活ができるように、私ができることはサポートしていきたいと考えています。
もう一つは、YHCの活動の充実です。先ほどもお話ししたように、私は父から「病気であることのマイナスをプラスに変えることが大切」と言われて育ってきました。若い世代の血友病患者さんにとっても、きっと励みになる考え方だろうと思っています。YHCでは、血友病治療に関すること、輸注方法に関すること、体の動かし方に関することなど、さまざまなことについて話をするようにしていますが、そうした活動をするなかで、何か一つ、参加した患者さんの心に残るような言葉を残してあげることができればと思います。それによってみんなが勇気づけられるとしたらとても嬉しいですね。

西田恭治先生
西田恭治 先生

人とのつながりから得ることは大きいですね。

Aさん
Aさん

そう思います。私は子どもの頃、周りに同じ世代の血友病患者がいませんでした。以前、東京の患者会のイベントに参加したときに、同じ年ごろの子どもたちがみんなで注射の仕方を学んでいたんです。それを見て、仲間がいるっていいな、と思いました。それも、この活動を行う動機になっています。
YHCでは、各地に出向くこともしますが、アクセスしやすいようにLINEのオープンチャットも始めました。血友病の患者さんが一人ぼっちにならないように、少しでも助けになるように、これからも活動を続けていきたいと考えています。

西田恭治先生
西田恭治 先生

Bさんはどんな夢をお持ちですか。

Bさん
Bさん

Aさんはとてもアクティブですね。私も見習わないといけないと思いました。
私は、家族5人が不自由なく幸せに暮らしていくことが一番の夢です。私の場合、父が仕事人間で家にあまりいないことが多く、家族での思い出はあまり多くありません。だから、家族の思い出をたくさん作っていければと考えています。そのためには、仕事をもっと頑張って、出世しないといけないかもしれませんね(笑)。また、足関節が少し悪くなっていて、営業職をいつまで続けていけるかという不安もあるので、歩きづらくなっても困らないように資格取得を目指すなど、研鑽を続けていきたいと思っています。
あと、Aさんの言葉にとても感銘を受けたのですが、私も、将来的には血友病に関してなんらかの情報発信などができたらいいなと思いました。私が勤務しているのは携帯電話の会社なので、その方法についての知識はあります。その知識を血友病患者さんのために生かすことができたら素晴らしいですね。

西田恭治 先生からのメッセージ

血友病の治療が十分ではなかった時代は、就業率も低く、既婚者も多くありませんでした。しかし、治療が進歩した今は、お2人のように自立されている方がたくさんいらっしゃいます。Aさんのお父様の言葉にあるように、血友病であることは一つの個性と考え、いろいろなことにチャレンジする生活を送っていただきたいと考えています。

保因者の方に聞きました:
Aさんの体験談