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血友病性関節症 【監修】医療法人財団 荻窪病院 血液凝固科 部長鈴木 隆史 先生
血友病性関節症とは
関節のしくみと関節内出血
ひざなどの関節は、軟骨に覆われた2本の骨が向かい合っていて、そのまわりを関節包と呼ばれる膜が包んでいる構造をとっています。関節包の内側には滑膜と呼ばれる膜があり、関節がなめらかに動くために必要なヒアルロン酸などの液体(関節液)を作っています。関節で出血が起きると、血液は関節包の中に溜まります。出血が起きてすぐには腫れませんが、チクチクする痛みやムズムズするおかしな感じがする場合があります。出血して数時間経つと関節包の中にパンパンに血液が溜まるため、滑膜が腫れ、熱感を感じたり痛みを感じます。この状態を滑膜炎と呼びます。そのため、早期に出血したことに気がついて、凝固因子製剤を輸注して止血することが大切です。
Target Joint
滑膜は関節液を作る以外にも、関節包に溜まった血液など老廃物を吸収して関節の中から排除するはたらきがあります。ところが血液を吸収して排除しようとすると、滑膜はそれが刺激となって増殖してしまいます。増殖した滑膜には血管がたくさんあるため、前よりも出血しやすい状態になります。そのため関節では、出血するとさらに出血しやすくなって出血を繰り返すという悪循環が生まれてしまいます。このような悪循環に陥ってしまった関節のことをTarget Joint(標的関節)といいます。増殖して厚くなった滑膜は、関節の痛みや関節が動きにくくなる原因になります。

血友病性関節症
また、関節内への出血を繰り返していると、関節内にヘモジデリンと呼ばれる血液由来の鉄成分が蓄積します。ヘモジデリンは、滑膜の細胞を刺激して、骨を壊すような成分の分泌を促すため、関節の破壊が起こります。このようにして、関節の破壊が起こり、関節の可動域(動く角度)が狭くなって動きにくくなったり(これを関節拘縮と呼びます)、骨棘(骨のトゲ)などが原因で動いた時に痛みが出るなど、関節機能に障害が起きた状態を血友病性関節症と呼びます。血友病で一番問題となるのが、この関節症です。血友病性関節症になると、日常の生活が不自由になるなど、生活の質(QOL)が低下するため、いかにTarget Joint を作らないか、そしていかに関節症を防ぐか、ということが非常に重要です。

血友病性関節症にならないために
身体全体の悪循環
血友病では関節内に出血してしまうと、関節に出血を繰り返す悪循環が起きてしまうだけでなく、身体全体にも悪循環が起きてしまいます。血友病の関節内出血は、ひじ関節にも見られますが、比較的体重がかかりやすい、ひざや足関節に多い傾向があります。ひざ関節に出血が起きると、安静のために歩行が制限または禁止されるため、ひざ以外の関節も動かさなくなり、関節の可動域が狭くなります。そのため、身体の柔軟性が失われ、関節に負担をかけることにつながります。また安静にすることで身体の筋肉も衰えるので、さらに関節への負担が増してしまいます。
悪循環を断ち切るために
このような関節内出血による悪循環を断ち切るためには、定期補充療法によって関節内出血を予防すること、また関節内出血が起きてもすぐに補充療法を行い止血すること、そして普段は運動をして筋肉をつけ、関節の負担を減らすこと、がとても重要になります。さらには、定期的に整形外科を受診して関節の状態を見てもらうこと、理学療法(リハビリテーション)で関節機能を回復・維持することも大切です。
定期的に整形外科を受診する
血友病性関節症は出血してすぐになるわけではなく、月単位・年単位で進むと考えられています。また関節症になっていても、出血が以前に起きていたことを自覚していない場合もあります。そのため、自分の関節の状態をきちんと把握して、ふさわしい治療を受けるためにも定期的に整形外科を受診して、レントゲンなどの画像診断で関節を見てもらうことが重要です。成人では、Target Joint になっている関節は、6ヵ月に1回は見てもらうのが良いと言われています1)。何度受診しても変わらないからと、受診を途中でやめてしまうケースも見られますが、関節症の定期検診では、「以前と変わっていない」ことを確認することが大切です。また、筋肉内の血のかたまりである、血友病性偽腫瘍や血友病性嚢腫を早めに発見して評価するためにも、定期的な受診が必要です。

理学療法を続けて関節機能を回復・維持する
理学療法とは、筋力訓練(いわゆる筋トレ)などの運動療法と、マッサージ・電気などの物理療法などを組み合わせて、運動機能の回復をはかる治療法のことです。血友病では、出血を起こさずに関節の機能を回復・維持することなどを目的として行います。
関節内出血によって一時的に関節の機能低下が起こっても、多くの場合は軽度であるため、そのまま放置されがちです。放置しても、他の部分の関節や筋肉が代わりにはたらいてくれるため、とくに問題なく生活は送れます。しかし、出血と放置を繰り返していると、徐々に軽度の機能障害が積み重なって、大きな機能障害を引き起こすことになります。そうなってからの回復は難しくなってしまうため、出血が起きたら放置せずに、軽度でも理学療法を行って、関節機能の回復を行うことが大切です。軽度の状態であれば、比較的簡単に機能を回復することも可能です。理学療法はすぐに結果が出る治療ではありませんが、日頃から自分の関節機能に注意して、理学療法士とともに継続的に行うことが重要になります。

血友病性関節症にならないための5つのポイント
1. 定期補充療法で関節内出血を予防する
定期補充療法には、血友病性関節症を予防する効果がある。
2. 関節内出血が起きたら、すぐに補充療法を行い止血する
関節内の出血量を最小限に食い止めることで、滑膜の増殖を最小限にできる。
3. 普段は運動をして筋肉をつけ、関節の負担を減らす
ボクシングなどのコンタクトスポーツは推奨されないが、普段から自分にあった運動をすること。
運動の前には必要に応じ予備的補充療法を行って、出血を予防することも忘れずに。
4. 定期的に整形外科を受診し、関節の状態を見てもらう
以前と変わっていないことを確認することが大事。
5. 理学療法(リハビリテーション)で、関節機能を回復・維持する
出血後は痛みがなくなってから。ポイントはコツコツ継続すること。
1) 竹谷英之: 血友病性関節症の予防を目指して - 整形外科視点から-. バイエル薬品, 2009.
MAT-JP-2104126-1.0-04/2021