みんなの体験談
血友病のお子さんを持つお母さんに聞きました:
Vol.2 こんなとき、どうしてる?
子育てのこと
血友病のお子さんを持つお母さんに聞きました:
Vol.2 こんなとき、どうしてる?
子育てのこと

お子さんが血友病だと知ったときの戸惑い、葛藤を、
皆さんはどう克服されてきたのでしょうか。
また、子育てを続けていくなかで、どのようなことを考え、
どのような工夫をされてきたのでしょうか。
今回は、血友病のお子さんを持つ3人のお母さんに、
出産前後の悩み、子育ての苦労や工夫、そして、ご家族の将来についてお話をお伺いしました。
聞き手

- 山口知子 先生
- (東京医科大学 臨床検査医学分野(現:荻窪病院 血液凝固科)
話し手

- Cさん
- 長女、長男、次男の3人のお子さんを育てるお母さん。小学4年生の長男と保育園年長の次男が血友病。

- Dさん
- 小学4年生の長男と1年生の次男の2人を育てるお母さん。次男が血友病。

- Eさん
- 6歳の長男と3歳の次男を育てるお母さん。長男が血友病。
※本ページに記載されている内容は、2025年2月23日にリモートにて座談会を実施した際のものです。
目次
診断前後の悩み、葛藤

山口知子 先生
生まれてきたお子さんが血友病だと知ったとき、どのような思いがあったのでしょうか。

Cさん
自分が確定保因者であることはもともと知っていたので、最初の妊娠(女の子を出産)のときから「男の子だったらどうしよう」という話は家族のなかでもしていました。2人目の子は男の子で、診断の結果は血友病でした。覚悟していたつもりではいましたが、当時は落ち込んだことを思い出します。これからが大変だな、と思いました。3人目も男の子で、同じく血友病でした。そのときも同じような思いを抱きましたが、3人目のときのほうが受け入れやすかったかもしれません。

Dさん
私は、祖父といとこが血友病でしたが、祖父はかなり前に亡くなっており、いとこが血友病だということも大人になるまで知らなかったので、血友病を自分のこととして捉えることはありませんでした。でも、長男を妊娠した際には、血友病の可能性について考えざるを得ませんでした。
私には2人の男の子がいますが、次男が血友病です。ただ、血友病と診断されたときは、思っていたほどの落ち込みはありませんでした。むしろ、その事実を受け入れて、この子が健康に、楽しく生きていくために何をしていけばよいのだろう、と考えることが多かったと思います。主人とも、必要なことを一つ一つ考えていこうと話し合いました。

Eさん
私の場合は、子どもがハイハイしだしたときに、体にアザがよくできることに気づいたのですが「活発な子だからアザができやすいのだろうな」くらいに思っていました。でも、その後もアザができることが多かったので、1歳半検診のときにその状況を伝えたら、血液の病気があるかもしれないと血液検査を勧められ、検査してみたところ血友病であることがわかりました。私の家系にも夫の家系にも血友病の人はいなかったので、まさかうちの子が血友病だなんて、ととてもショックでした。
2人目の男の子は血友病ではなかったのでほっとしましたが、一方で、長男だけが血友病で生まれてきてしまったということに対して、申し訳ないと思う気持ちはありました。

山口知子 先生
お子さんが血友病で生まれてきたことについての捉え方は、皆さんそれぞれで異なるようですね。ご家族や親戚に患者さんがいらっしゃるかどうかでも捉え方が違うのかもしれません。
受診時や日常生活での工夫

山口知子 先生
次に、受診の際に医療従事者とされているお話、お子さんの成長に伴って行った日常生活のなかでの工夫などがありましたら教えてください。

Cさん
受診時には、前回の受診からの出来事や子どもの出血に関することだけでなく、日常生活に関わること、例えば習い事を始めましたとか、こういう悩みがありますみたいな話をできる限り伝えるようにしています。以前、どうしても出血の回数が多くなる時期があって「何でだろうね」という話になったときに、先生から体の動かし方がよくないのではないか、といった『気づかなかった視点』からのアドバイスをもらったことがあり、先生にどんな子どもなのかを理解してもらったほうがもしかしたら治療にもよいアドバイスをもらえるのかなと感じたので、子どもの性格や家庭の状況も基本的には話すようにしています。

Dさん
私も、Cさんと同じように主治医の先生とは何でも話をするようにしています。保育園の様子、習い事、家族旅行のことなど、血友病とは関係ないことについて話す機会も多いです。そのような話のなかで、室内をクッションだらけにして転んでもケガをしないようにしたり、保育園と小学校では、頭をぶつけても大丈夫なように帽子にクッションをつけたり、上履きは薄手のものではなく厚くしっかりとしたものにしたりするなど、日常生活で注意すべきことが身についてきたのかもしれません。

Eさん
うちの子は活動的で、脛(すね)にアザができやすかったので、足を守るために、1~2歳のときは夏場でもレギンスを履くようにしていました。最近はサッカーをしたいと言っているので先生に相談したり、何か起こったときの対処法を教えてもらったりしています。また、じっとしていない性格なので、いつかケガをするのではないかと心配もありますが、日常生活での注意などについてもアドバイスをもらい、今のところは特に大きな出血もなく普通の生活ができています。

山口知子 先生
どんな小さなことでも、気になることは主治医に確認することが大切ですね。そのようにして主治医と患者さんの距離が近づけば、いろいろなことに気づくようになるので、安心につながると思います。
子育てするうえでの悩み

山口知子 先生
子育てにおいて、血友病であること特有の大変さもあったかと思います。
どのようなことで苦労されているでしょうか。あるいは、どのように克服されたでしょうか。

Cさん
子どもが成長するにつれて、血友病であることを本人がどう自覚していくかという点は気になっています。小学校も高学年になってくると、自分はほかの子と少し違うということを認識するようになると思うので、それに自分のなかでうまく折り合いをつけられるのか、というのが心配事の一つです。今、小学4年生ですが、どのようにして成長していくのか、見守っていきたいし、支えになっていければと考えています。

Dさん
子育てのなかで、何をしたらいいのか、どのようなことに注意したらよいのかという点はわからないことが多かったのですが、患者会に入り、そこでお話を聞いたり、意見交換をしたりして学んだことが役に立ちました。子どもの成長に合わせて悩みも変わってきますし、治療法も進歩しているので、さまざまな情報を患者会から共有してもらえることは有益ですし、とても刺激になっています。

Eさん
血友病のある子とない子が兄弟なので、お互いにどう思うのかということが少し気になる点です。血友病ではない3歳の弟が、「なんでにいには注射するの?」と聞くこともあります。「ケガしたときに血が止まりにくいからだよ」と教えるようにしていますが、これからだんだんと病気のことがわかって、お互いを理解するようになればいいなと思っています。

山口知子 先生
Cさん、Dさんも患児の他にご兄弟がいますね。

Cさん
うちは女の子なので、保因者に関しての悩みがあります。保因者健診はまだ受けていませんが、もし保因者だとしたら少なからずショックを受ける可能性はあるので、親としては気にしている部分ではあります。

Dさん
長男には、次男が血友病であることを隠さずに伝えるようにしてきました。血友病についての絵本を読ませたり、次男の通院のときも「弟は頑張っているんだよ」と伝えたり、「何かあったら助けてね」と話したり、一つ一つ説明しています。兄弟喧嘩をしていても「今ぶつかっていたけど大丈夫かな」、みたいに弟のことを気にかけているので、思いやりは持っているのではないかと思っています。
保育園、学校などとのコミュニケーション

山口知子 先生
入園、入学の際には、保育園、学校とはどのようなお話をされたのでしょうか。

Cさん
保育園へは病院からいただいたパンフレットを持参して、血友病とはこういう病気で、こういったことに気をつける必要があって、何かあったらすぐに連絡してほしいと詳しくお伝えしました。小学校に入学する際は、自分が病気であることや注射を打たなくてはいけないことを本人が理解していたので、保育園のときのような詳しい説明はせず、養護教諭の先生にパンフレットをお渡ししたという感じです。

Dさん
長男と同じ保育園に通わせる予定でしたが、血友病が理由で断られてしまいました。仕方がないので育児休業期間を延長し、違う保育園を探したという経緯があります。今にして思えば、それが、私が一番落ち込んだことだったかもしれません。
小学校に入学する前後には、養護教諭の先生、担任の先生とお話をする機会がありました。幸い、養護教諭の先生には以前にも血友病の生徒さんへの対応経験があったのでとても理解があり、助かりました。

Eさん
私は保育士なのですが、子どもは、自分が勤めている保育園に通わせるようにしました。先生方には病院でもらったパンフレットをお渡しし、職員会でも血友病についてのお話をする機会をもらい、理解を深めてもらっていると思います。ケガをしたときにはすぐ報告してもらい、ぶつけたときもすぐに冷やすなどの対応もしてくれます。4月からは小学校に入学するので、事前に就学相談をさせてもらい、養護教諭の先生にもパンフレットをお渡ししました。

山口知子 先生
Cさんも保育園から入園を断られたのですよね。

Cさん
そうなのです。私も、0歳児入園で入ろうとした保育園に断られました。そのときは引っ越しする予定があり、引っ越し先で保育園に入園を申し込んでいました。事前に血友病であることをお伝えしたときには受け入れ可能だったにもかかわらず断られてしまいました。急遽、育児休業を1年間延ばして、引っ越しも取りやめて、自治体とも相談しながら、保育園を決めました。

山口知子 先生
もしかしたら、Cさん、Dさんと同じような経験をしている人もいるかもしれませんね。お話を聞いて血友病についての理解を深める啓発がもっと必要なのだと思いました。
親御さん同士のコミュニケーション

山口知子 先生
次に、同じ血友病のあるお子さんのお母さん同士でのコミュニケーションについてお話を伺います。対面でのコミュニケーション、SNS、患者会やサマーキャンプなどさまざまな手段がありますが、皆さんどのように情報共有を行っているのでしょうか。

Cさん
患者会は大事な情報源になっていますね。患者会で講演を聴いたり、日常生活の過ごし方について相談したりしています。患者会に行くと、いろいろな人とさまざまな視点で話ができるので、自分だけの考えにとらわれず、視野を広げることができるような気がします。

Dさん
子どもが0歳の頃は、どのように子育てをしていけばいいかが本当にわからなくて、リアルな声が聴けるといいなと思い、SNSで何人かの血友病の方とつながりました。そうした方々と話をするなかで患者会が全国にあることを知り、参加してみたところ、先輩のお母さん方にも優しく受け入れていただきました。経験や悩みの共有はとても役に立っていますし、ありがたいです。今度は、私が新しいお母さんたちにアドバイスできることもあるかもしれません。
昨年の夏には、子どもがサマーキャンプに参加しました。上の子も一緒に来ていいということで、4年生のお兄ちゃんも参加したのですが、とても楽しかったみたいです。私たちがつながりを求めているように、子ども同士のつながりも大切なのだなと思いました。

Eさん
私は患者会には入っていないので、主治医の先生と話すことが主な情報源です。SNSでの交流のことも知らなかったので、私もいろいろ調べていきたいと思っています。
ご自身の生活や仕事について

山口知子 先生
最後に、お母さんご自身やご家族について伺います。お子さんが血友病であるということは、皆さんの人生にどのような影響がありましたでしょうか。

Cさん
血友病であることを知ったときには、家族の生活がどう変わるのだろうという不安はすごくありました。実際、幼い頃は毎日のように通院をしていましたから。でも、病気のせいだからといろいろなことを諦めてしまったら、あとで悔やむかもしれません。もちろん、病気にはきちんと向き合っていかなければなりませんが、変えなくて大丈夫であれば変えずに頑張ってみよう、という思いもありました。その結果、生活を大きく変えることなく、これまで治療を続けることができたと思っています。そんなに頑張らなくてもよかったかなと思うこともありますが、今はよいバランスで治療と日常生活、仕事が並立できています。

Dさん
うちの家族は旅行が好きなので、夏休みに岩手県の古民家で1週間過ごしたり、家族でホノルルマラソンに出かけたりもしました。子どもはマラソンではなく、10km歩くというイベントに参加したのですが、まったく問題はなく、楽しいハワイ旅行になりました。
やりたいことにはチャレンジする、という考えは、子どもも私も同じです。それを行うことで困難に遭遇するかもしれませんが、そのときはそれを克服できるように行動することが大切だと考えています。もちろん、困難に遭遇しないための見通しを持つこと、そして万全の準備や工夫を怠らないことも重要です。
家族にとって、血友病であることがマイナスに作用することはないかもしれません。本人は常に前向きで頑張っていますし、長男も夫もポジティブに物事を捉えるようになっています。私自身について言えば、次男が血友病であることによって「自分はこういう性格だったのか」「こんな弱さがあったのか」と気づかされることもあります。血友病でよかった、とは言いませんが、私たちを成長させるきっかけにはなっていると思っています。

Eさん
うちの子はじっとしていないタイプなので、いつか大きなケガをするのではないかという心配はあります。でも、できるだけ、本人がしたいと思うことはさせてあげたいし、あまり制限を設けたくないと思っています。幸い、今は血友病の治療が進歩しているので、きちんと治療を続けていれば、血友病ではない人と変わらない生活ができると思うので、それは安心しています。
山口知子 先生からのメッセージ
今回ご登場いただいたお母さん方は、皆さん明るく、前向きに子育てをされているのが印象的でした。血友病患児の子育ては決して容易ではないはずですが、悲観することなく、工夫を凝らしながら楽しく過ごされていることに安心するとともに、勇気をいただきました。お子さん方の今後の成長に伴ってさまざまな困難に直面することもあるかもしれません。しかし、お母さん方の前向きな姿勢と愛情があれば、きっと乗り越えていけると信じています。