用語集
あ行
アルブミン
アルブミンは血液中に含まれるタンパク質です1)。体内の血液量や水分量を調整する作用、ビタミンや脂質といった栄養素、ホルモン、酵素、薬物などを運搬するはたらきがあります1)。医薬品としては、大量出血によるショックや重症のやけど、腹水のある肝硬変など2)、アルブミンが減少した場合や血漿量が少なくなった場合に使用され、むくみ、胸水、腹水などの改善や血圧の安定のために使用されます3)。血友病の治療では、アルブミンと結合することで血液凝固因子の活性が続くようにした製剤があります4)。
2)野﨑昭人ほか:日本輸血細胞治療学会誌. 2024;70(3):406-430.
3)厚生労働科学研究費補助金 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業「輸血用血液製剤及び血漿分画製剤投与時の効果的なインフォームド・コンセントの実施に関する研究」班編:輸血/血漿分画製剤使用の前に輸血/血漿分画製剤の説明書[2026年2月5日閲覧]
4)白幡 聡, 福武勝幸編:みんなに役立つ血友病の基礎と臨床(改訂3版), 医薬ジャーナル社, p.334, 2016
一次止血1,2)
血管に傷がつくと、その血管の壁のコラーゲンがむきだしになります。するとフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand因子:vWF)が“のり”のようなはたらきをして、血小板とコラーゲンを結合させます。こうして集まった血小板が、最初の血栓[血小板血栓(一次血栓)]になります。
2)白幡 聡, 福武勝幸編:みんなに役立つ血友病の基礎と臨床(改訂3版), 医薬ジャーナル社, p.42, 2016
遺伝子
細胞の核にある「DNA(デオキシリボ核酸)」の中の、タンパク質を作るための情報のことを遺伝子といいます1)。遺伝子の情報に基づいて作り出されたタンパク質は、体を作る筋肉や皮膚などの主成分になるほか、消化や代謝といった生命維持のために必要な酵素などになります1)。そのため、遺伝子の情報に変化があると、作られるタンパク質にも変化が生じ、病気を引き起こすことがあります。血友病は、タンパク質である血液凝固因子を作る遺伝子に変化が生じることで起こる病気です2)。
2)医療情報科学研究所:病気がみえる vol.5 血液(改訂3版),メディックメディア, p.282, 2023
遺伝子組換え血液凝固因子製剤
遺伝子組換え血液凝固因子製剤とは、目的の血液凝固因子を作るために、遺伝子組換え技術を使ってヒト凝固因子遺伝子を作る細胞株を作製し、その細胞を培養して目的の血液凝固因子を作り、血液凝固因子を取り出して精製し、製剤化したものです1)。
このような作り方をする製剤を遺伝子組換え製剤といい、リコンビナント製剤とも呼ばれます2)。製造に用いられる細胞には、大腸菌、酵母、動物細胞などがあります1)。
血友病の治療では、遺伝子組換え型血液凝固第Ⅷ因子、バイパス製剤の1つである遺伝子組換え活性型血液凝固第Ⅶ因子、遺伝子組換え型血液凝固第Ⅸ因子、抗血液凝固第IXa/X因子ヒト化二重特異性モノクローナル抗体、抗組織因子経路インヒビター抗体が利用されています2)。
2)厚生労働省医薬局血液対策課:令和6年度 血液事業報告, p34, 2025
遺伝子組換え第Ⅷ因子
血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)は正常な止血のはたらきを維持するための重要な血液凝固因子の1つで、循環血液中ではフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand因子:vWF)と結合して存在しています1)。
遺伝子組換え第Ⅷ因子製剤は、血友病Aで欠乏している第Ⅷ因子を遺伝子組換え技術によって製造した製剤です。国内では、第Ⅷ因子を発現する細胞(宿主細胞)が異なる製品が供給されています。第Ⅷ因子を発現させる細胞として、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、ベビーハムスター腎細胞(BHK)などが使用されています2)。
2)日本血栓止血学会 インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成委員会:インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン, p10, 2013
遺伝子クローニング
特定の遺伝子を分離して、大量に増やすための技術です1)。増やしたい遺伝子を組み込んだ特殊なDNA(組換えDNA)を作り、それを大腸菌などの細胞(宿主細胞といいます)に組み込みます1)。この細胞を増殖させると、目的の遺伝子のコピー(クローン)が大量に生産されます1)。血友病の血液凝固因子製剤にも、この方法を利用して製造されたものがあります2)。
2)厚生労働省医薬局血液対策課:令和6年度 血液事業報告, p34, 2025
遺伝子治療
遺伝子の変化が原因で発症する病気には、いまだに有効な治療法が存在しないものもあります1)。そのような病気に対して新たに開発された治療法が、遺伝子治療です1)。安全性と有効性の試験結果からすでに国から承認を受けた遺伝子治療もあります1)。
遺伝子治療の種類としては、遺伝子の変化が原因の病気に対して、正常な遺伝子を補充して修復するという、遺伝子を治療する方法と、遺伝子の機能を強める、または追加する遺伝子で治療するという、遺伝子を薬として使う方法があります。前者は、1つの遺伝子が変化した病気など、後者はがんなどに用いられます2)。
血友病は、1つの遺伝子が原因の遺伝性疾患であること、凝固因子測定や年間出血回数(ABR)などにより治療の効果が評価しやすいことなどから、遺伝子治療について盛んに研究されてきました3)。
現在では、ベクター1)(血友病Aの場合は第Ⅷ因子を発現する遺伝子を、血友病Bの場合は第Ⅸ因子を発現する遺伝子を、ウイルスが細胞に入り込む性質を利用して、目的遺伝子を細胞に導入する運搬体)を直接患者さんに投与して肝臓に遺伝子を届ける治療が使われるようになってきています3)。血友病の遺伝子治療はそれを患者さんに直接投与して、不足・欠乏している血液凝固因子を産生させる治療です3)。1回の投与で長期間の効果が期待されており、定期的な薬剤の投与から解放される可能性があります3)。
2) 望月秀樹:神経治療. 2023; 40(3): 201-204.
3) 柏倉裕志:血栓止血誌. 2024; 35(1): 60-70.
遺伝性疾患
遺伝子の変化が原因で病気があらわれるものを遺伝性疾患といいます。遺伝子の異常は、突然変異としてあらわれたり、親から遺伝したりします。遺伝性疾患は遺伝子の変化の状態によって、次のように分類することができます。
- ・単一遺伝子疾患:単一の遺伝子の変化に起因するもの
- ・染色体性疾患:染色体異常(染色体の数の異常や構造の異常)に起因するもの
- ・多因子性疾患:複数の遺伝子や環境の要因が関係するもの
血友病は、血友病Aでは第Ⅷ因子、血友病Bでは第Ⅸ因子の遺伝子の異常によって生じる、単一遺伝子疾患に分類されます。
インヒビター
血友病の標準的な治療は、不足している凝固因子を点滴や自己注射で補う方法です。しかし、凝固因子を外から補うために凝固因子製剤を投与したことで、体が凝固因子を異物と認識して抗体を作ってしまうことがあります。この抗体のことをインヒビターといいます1)。
インヒビターができてしまうと、投与した凝固因子が十分に効かず、出血が止まりにくくなります1)。血液凝固第Ⅷ因子製剤、第Ⅸ因子製剤によってインヒビターができる割合は、先天性血友病Aの患者さんでは4.8~6.5%、先天性血友病Bの患者さんでは3.5~5.2%と、国内の調査で報告されています2)。しかし、過去に治療歴のない患者さんでのインヒビター発生率は、重症の先天性血友病Aの患者さんの場合には21~32%になるという報告もあります2)。
インヒビターができてしまうと、それまでの治療では止血できなくなってしまうため、次のような治療に変更する必要があります2)。
①中和療法:インヒビターに打ち勝つ(中和といいます)量の凝固因子を投与して止血を図る方法です2)。
②バイパス止血療法:不足している凝固因子を利用しない別の経路で血液を固める薬を使って止血する方法です2)。
③免疫寛容導入療法:一定期間、インヒビターができてしまった凝固因子を定期的に投与して体を慣らし、インヒビターの産生を抑える方法です3)。ただし、この方法はインヒビター保有血友病Bの患者さんでは成功率が低いことや副作用がみられることから、勧められていません。出血時や手術時の治療として、中和療法やバイパス止血療法、それ以外の場合に免疫寛容導入療法が行われます2,3)。また、近年では、インヒビターがある血友病A患者さんに投与できる薬も使われています1)。
2)インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成委員会:インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン, p.3, 2013
3)インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成委員会:インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン, p.12-13, 2013
X染色体
細胞の核にはDNAが折りたたまれた染色体が入っています1)。染色体は、父親、母親から1本ずつ受け継がれた2本で1対になっており、ヒトの細胞には22対存在しています2)。これを「常染色体」といいます2)。そして、そのほかに性別を決定する「性染色体」が1対存在しています2)。X染色体は、この性染色体の1つです2)。もう1つの性染色体はY染色体で、男性はX染色体とY染色体、女性はX染色体を2本持っています2)。
血友病患者さんでは、このX染色体の長腕といわれる部分にある、血液凝固因子を作るための遺伝子に異常が生じていることがわかっています3)。血友病Aでは第Ⅷ因子、血友病Bでは第Ⅸ因子の遺伝子に異常が生じており、それぞれの因子のはたらきが低下している、または、はたらかなくなっているため、血液が固まりにくくなり、出血傾向を示すようになります3)。
2)国立精神・神経医療研究センター 精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班: 神経筋疾患ポータルサイト[2022年11月7日閲覧]
3)医療情報科学研究所:病気がみえる vol.5 血液(改訂3版),メディックメディア, p. 282, 2023
最終更新日 2026年2月13日
MAT-JP-2508943-1.0-02/2026