用語集
は行
フィブリン
フィブリンは、血液凝固(二次止血)の最後にできる、線維状の安定したタンパク質です1)。
一次止血によってできた血栓[血小板血栓(一次血栓)]はもろくはがれやすいため、十分な止血はできません1)。そこで、さまざまな血液凝固因子が連鎖的に反応して(血液凝固カスケード)、血液中のフィブリノゲンを、このフィブリンに変換して血小板血栓を包むように固めることで、しっかりと止血されます1,2)。
血友病患者さんでは、この血液凝固カスケードの中の特定の因子がうまく働かないため、血液が凝固せず、出血傾向がみられます3)。
2)奈良信雄監修:ぜんぶわかる血液・免疫の事典, 成美堂出版, p.22-23, 46-47, 2017
3)医療情報科学研究所:病気がみえる vol.5 血液(改訂3版), メディックメディア, p.282, 2023
フォン・ヴィレブランド因子
フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand因子:vWF)は、血管内皮細胞や骨髄巨核球で作られる糖タンパクです1)。一次止血では、血小板とコラーゲンを結合させる“のり”のようなはたらきをして、血小板血栓(一次血栓)を作ります2)。そのほかにも第Ⅷ因子の安定化に関わるとされています1)。
2)奈良信雄監修:ぜんぶわかる血液・免疫の事典, 成美堂出版, p.46, 2017
フォン・ヴィレブランド病1)
先天性の血中フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand因子:vWF)の量的または質的な異常によって、血小板とコラーゲンを結合する作用が低下し、主に一次止血がうまくできずに出血傾向を生じる病気です。日本において、血友病の次に多い先天性血液凝固異常症です。
プラスミド
プラスミドは、染色体DNAとは別に存在する小さなDNAのことをいいます1)。通常は、環状の二本鎖DNAとして存在しています1)。
プラスミドは自分のコピーを増やすことができます1)。その性質を利用して、目的の遺伝子を宿主細胞に導入するために使われており1)、血友病の遺伝子治療2)などにも利用されています。
2)高橋 勲ほか:血液事業. 2003; 26(3): 471-475.
保因者
血友病の「保因者」とは1)
血友病は、血液を固めるために必要な凝固因子(血友病Aでは第Ⅷ因子、血友病Bでは第Ⅸ因子)が生まれつき少ない、またはうまく働かないことで出血が止まりにくくなる病気です。
血友病患者さんでは、これらの血液凝固因子をつくる遺伝子に変化があるため、正常な因子が作れなくなっています。血液凝固因子を作る遺伝子は、いずれもX染色体上にあり、男性は「X染色体」と「Y染色体」を1本ずつ、女性は「X染色体」を2本持っています。1本しかX染色体をもたない男性では、その遺伝子に異常があると病気が発症しますが、女性はX染色体を2本持つため、片方の遺伝子に異常があっても、もう片方の正常な遺伝子が働くことで病気が発症しなくなります。このような「2本のX染色体のうち1本に病因遺伝子変異をもつ女性」を保因者といいます3)。
保因者の方の数は、血友病患者の数よりも多いと考えられています。世界血友病連盟(WFH)の推計では、男性血友病患者のおよそ1.6~5倍の人数の保因者が存在するとされ、そのうち約20%は凝固因子活性が30%以下で、何らかの出血傾向を示すと報告されています2,3)。
保因者の症状2,3)
保因者の多くは自覚症状がありませんが、因子活性が低い場合には出血傾向がみられることがあります。国内外の研究では、月経過多(23~50%)、産後出血(22~43%)、抜歯後出血(21~77%)など、さまざまな症状が報告されています。関節内出血や青あざ、手術後の出血が起こることもあります。
このような出血傾向は軽症の血友病男性に似ており、近年では症状のある保因者を「女性血友病」として扱う考え方も広がっています。
保因者診断と検査2,3)
保因者は、血友病の家族歴がある女性に多くみられます。血友病患者の娘や、2人以上の患者を出産した女性は「確定保因者」、母方に血友病患者がいるがまだ血友病患児を出産していない女性などは「推定保因者」と呼ばれます。
診断には、(1)家族歴の確認、(2)血液検査、(3)遺伝子解析の3つがあります。血液検査では、第VIII因子活性や第IX因子活性を測定し、フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand因子:vWF)抗原との比(FVIII活性/vWF抗原比)を参考にします。保因者ではこの比が0.5前後に低下することが知られています。
遺伝子解析では、患者の遺伝子変異を確認したうえで、同じ変異を持つかを調べます。確定診断が可能ですが、結果が出ない場合や費用の問題もあり、実施できる施設は限られています。
妊娠・出産時について2,3)
保因者が妊娠した場合、母子ともに出血のリスクを考慮する必要があります。血友病Aの保因者では、妊娠後期に第Ⅷ因子が自然に増加し出血リスクが低下しますが、血友病Bの保因者では第Ⅸ因子の上昇が少なく、補充療法が必要となる場合があります。
分娩にあたっては、吸引や鉗子分娩など胎児に負担がかかる方法は避けることが推奨されています。帝王切開が行われる場合もあります。出産後は、妊娠中に上昇していた凝固因子が1週間ほどで元に戻るため、産後出血に注意が必要です。
保因者の支援とカウンセリング2,3)
血友病の保因者は、出血への不安だけでなく、遺伝に関する悩みや精神的な負担を抱えることがあります。これまで十分なケアが届いていなかったこうした問題に対し、近年は保因者の方を支えることの重要性が認識されています。
その中心的な取り組みが「保因者健診」です。これは、保因者の方ご自身の出血のしやすさ(凝固因子活性)や貧血の有無などを確認し、体と心の両方をサポートするためのものです 。健診の目的は、保因者の方の生活の質(QOL)を高めることにあります。
健診では、現在の血友病治療が大きく進歩していることもお伝えしています。昔のイメージからくる結婚や出産への過度な心配を和らげ、前向きな人生設計をお手伝いすることも大切な目的となっています。
このほかにも、分かりやすい小冊子や動画教材が用意されているほか、遺伝について専門家と相談できる「遺伝カウンセリング」の機会もあります。
こうしたサポートは、保因者の方ご自身の安心だけでなく、これから生まれてくる新しい命を守ることにもつながる大切な取り組みです。
2)西田恭治:産科と婦人科.2013; 80(1): 40-46.
3)西田恭治:血栓止血誌.2021; 32(1): 33-41.
包括医療
包括医療の概要と必要性
血友病の治療は、優れた血液凝固因子製剤の開発や在宅自己注射療法の普及により大きく進歩しました1)。しかし、血友病患者さんは、身体的にも精神的にも大きな負担を感じています。こうした患者さんの生活の質(QOL)を改善するためには、小児科や内科の血液専門医だけでなく、ほかの診療科の医師をはじめとしたさまざまな医療スタッフが協力して、血友病患者さんが感じているさまざまな負担に対処していく必要があります2)。
血友病患者さんは生涯にわたり、以下のような身体的・心理的・社会的な課題に直面する可能性があります。
<身体的問題>1-3)
繰り返す関節内出血の結果生じる関節の変形や機能障害(血友病性関節症)は、日常生活に大きな支障をきたす主要な合併症です。さらに、過去の非加熱凝固因子製剤の使用に起因するHIVやC型肝炎ウイルス(HCV)への感染は、多くの患者さんにとって深刻な健康問題となってきました。近年では、治療の進歩により平均寿命が延伸したことで、加齢に伴う生活習慣病などの新たな問題も顕在化しています。
<心理・社会的問題>1-3)
出血への絶え間ない不安から、就学、就労、結婚、スポーツへの参加など、社会生活のさまざまな面でハンディキャップを抱えることがあります。また、遺伝性の疾患であることから、本人や家族が遺伝カウンセリングを必要とする場合や、複数の制度にまたがる医療費助成制度の利用といった経済的な課題も存在します。
これらの複雑に絡み合った問題に、血液専門医一人の力で対応するには限界があります2)。そこで、患者さんを中心として、身体的、精神的、社会的な側面から総合的に支援し、生活の質(QOL)の維持・向上を目的とする包括医療の考え方が不可欠となります1)。
欧米諸国では、こうした考えに基づき1970年代から血友病治療センターが設立され、包括医療チームによるトータルケアが実践されてきました2)。
包括医療を担う専門チーム
包括医療は、血友病に関する深い専門知識を持つ多様な職種のスタッフが連携する「チーム医療」によって提供されます2)。チームを構成する主な専門家とその役割は以下の通りです。
<血液専門医(小児科医・内科医)>4)
チームの中核として、血友病の正確な診断、凝固因子製剤の選択や投与量の決定など、治療全体の管理を行います。また、患者さんの状態に応じて追加検査やほかの専門医への紹介を判断する司令塔の役割も担います。
<看護師(ナースコーディネーター)>1,3)
包括医療チームのキーパーソンとされる重要な存在です。患者さん・家族と多職種の医療スタッフとの間の連携を円滑にする橋渡し役を担います。具体的な業務は、疾患の基礎知識や在宅自己注射療法の指導・教育、日常生活における出血時の対応に関する相談受付、定期的な総合診察外来の予約調整や運営、患者の心理的サポート、さらには学校や職場といった患者さんを取り巻く人々への病状説明など、極めて多岐にわたります。患者さんにとって最も身近な専門職の1つです。
<整形外科医>
血友病の関節症状の治療や予防において、整形外科医は重要な役割を担います。関節症状があらわれてしまった場合の痛みのケアや、生活の質への影響を評価・サポートします5)。
<理学療法士>
関節を保護するための筋力トレーニングや関節可動域訓練など、個々の患者さんに合ったリハビリテーションプログラムを立案・指導します。安全に行えるスポーツや活動に関する助言も行います。
<歯科医>
出血リスクを適切に管理しながら、虫歯治療や抜歯などの口腔ケアを行います。
<ソーシャルワーカー>3)
医療費助成制度(特定疾病療養受療証、小児慢性特定疾病医療費助成制度など)の案内や申請手続きの援助、障害年金や身体障害者手帳に関する相談など、患者さんと家族が利用可能な社会資源についての情報提供と支援を行います。
このほかにも、必要に応じて、感染症科などの関連する診療科の医師、心のケアを担当する臨床心理士、薬物治療を管理する薬剤師などがチームに加わり、多角的なサポートを提供します 2)。
日本における包括医療の提供体制
包括医療は、上記の専門スタッフが揃う「血友病治療センター(HTC)」やそれに準ずる専門医療機関で提供されることが理想です。しかし、日本では約6,000例の血友病患者さんが500以上の医療機関に分散して受診しており、その多くは患者数が5例以下の非専門施設であるという実情がありました6)。この患者さんの分散が、専門的な医療へのアクセスを困難にし、地域による医療格差を生む一因とされてきました5)。
この課題を解決するため、日本血栓止血学会を中心に検討が重ねられ、2018年1月より全国的な「血友病診療連携委員会」が設置され、診療連携体制の構築が本格的に開始されました7)。この体制は、機能の異なる以下の3種類の施設がネットワークを形成し、連携することを基本としています。
<ブロック拠点病院>7,8)
各地域ブロック(北海道、東北、関東甲信越など)に設置されます。包括医療の提供、人材育成、地域の診療ネットワーク構築、臨床研究の推進といった中核的な機能を担います。
<地域中核病院>7,8)
各都道府県で認定されます。ブロック拠点病院と連携し、それぞれの地域における血友病診療の中心となります。
<診療連携施設>7,8)
上記以外の、患者さんが日常的に受診するかかりつけ医などの医療施設です。ブロック拠点病院や地域中核病院と密に連携を取りながら治療にあたります。
この連携体制の目的は、患者さんが居住地の近くで日常的な診療を受けられる利便性を損なうことなく、必要な時には全国どこにいても質の高い専門的な包括医療を受けられる環境を整備することにあります7)。
包括医療の有効性
専門チームによる包括医療の加療は、患者さんの予後を大きく改善することがいくつかの調査で示されています。特に米国の調査では、血友病治療センター(HTC)で包括医療を受けている患者は、それ以外の施設で治療を受けている患者さんと比較して、死亡率が67%、出血による入院率が40%低いと報告されています2)。
また、医療経済の専門家や患者代表も参加する国際的な評議会は、包括医療が患者さんにもたらす具体的な価値として、以下の点をあげています6)。
・平均余命の延長
・健康関連QOL(生活の質)の向上
・関節機能のより良好な維持
・生涯にわたる生産性の向上
・加齢による合併症の発症低減
包括治療は、単に出血を管理する対症療法にとどまらず、合併症の発症・進展を予防し、患者が抱える心理社会的な課題にも寄り添うことで、血友病患者がより豊かで健やかな人生を送るための基盤となる医療体制であるといえます。
2)白幡 聡, 酒井道生:血栓止血誌. 2010; 21(3): 349-353.
3)白幡 聡, 福武勝幸編:みんなに役立つ血友病の基礎と臨床(改訂3版), 医薬ジャーナル社, p.385-393, 2016
4)一般社団法人 日本血液学会:新血液専門医プログラム[2025年11⽉7⽇閲覧]
5)白山理恵, 柏原やすみ:血栓止血誌. 2024; 35(1): 71-77.
6)白幡 聡:日本小児血液・がん学会雑誌. 2015; 52(3): 249-253.
7)白幡 聡:日本小児血液・がん学会雑誌. 2019; 56(3): 287-292.
8)白幡 聡:血栓止血誌. 2017; 28(4): 443-450.
補充療法
病気のためにホルモンやビタミン、神経伝達物質などが不足・欠乏する場合、その成分を補充する治療法を補充療法といいます。
血友病の治療でも、治療の中心は、足りない凝固因子を点滴や自己注射で補う「補充療法」です1)。出血がみられた場合に、血液凝固因子を補充する出血時補充療法や、血液凝固因子を定期的に補充して出血を防ぐ定期補充療法が行われます1)。定期補充療法では、出血のない時から定期的に血液凝固因子製剤を補充することで、出血や関節の障害を予防できるようになりました1)。そのほか、スポーツやイベント、あるいはリハビリテーション前などに、出血を防ぐ目的で血液凝固因子製剤を補充する予備的補充療法も行われます2)。
2)日本血栓止血学会 インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成委員会:インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン, p15, 2013
最終更新日 2026年2月13日
MAT-JP-2508943-1.0-02/2026