治療について

出血時補充療法

【監修】医療法人財団 荻窪病院 血液凝固科
鈴木 隆史 先生

出血時補充療法

出血時の凝固因子製剤の補充は、できるだけ速やかに、出血の部位や程度に応じた適正な投与量、投与方法で行うことが大切です。

併せて、「RICE処置」も必ず行うようにします。

出血時補充療法の輸注量の計算

出血時補充療法の輸注量の計算

第VIII(8)因子:必要輸注量(単位)= 体重(kg)× 目標ピーク因子レベル[活性(%)]× 0.5

第IX(9)因子:必要輸注量(単位)= 体重(kg)× 目標ピーク因子レベル[活性(%)]× [1 〜1.4

*血漿由来製剤の場合は1、遺伝子組換え第IX因子製剤の場合は1〜1.4ですが、特に第IX因子の場合は上昇率の個人差が大きいので、個々に輸注試験をして回収率を確認することが望まれます。

目標ピーク因子レベル[活性(%)]は、出血部位や出血の程度によって異なるため、以下の表を参考にしてください。実際の輸注にあたっては、個人差があるので、医師と決めた投与量を守ってください。

急性出血の補充療法

出血部位 目標ピーク
因子レベル
追加輸注の仕方 備考
関節内出血 軽度 20〜40% 原則初回のみ。 急性期は局所の安静保持を心がける。外傷性の関節内出血もこの投与方法に準じて行う。なお、急性期に関節穿刺を行う場合には「各種処置・小手術」の項に従って補充療法を行う。
重度 40〜80% ピーク因子レベルを40%以上にするよう12〜24時間毎に出血症状消失まで。
筋肉内出血
(腸腰筋以外)
関節内出血に準ずる。 急性期は局所の安静保持を心がける。
腸腰筋出血 80%以上 以後トラフ因子レベルを30%以上に保つように出血症状消失まで。 原則入院治療として安静を保つ。関節手術に準じて持続輸注を選択してもよい。
口腔内出血 20〜40% 原則1回のみ。止血困難であれば、ピーク因子レベルを20%以上に保つように12〜24時間おきに出血症状消失まで。 トラネキサム酸1回15〜25mg/kgを1日3〜4回内服か1回10mg/kgを1日3〜4回静注を併用してもよい。なお、舌や舌小体、口唇小体、口蓋裂傷では流動食などの柔らかい食事を心がけ、入院加療を考慮する。
舌や舌小体、口唇小体、口蓋裂傷 40〜60% ピーク因子レベルを40%以上にするよう12〜24時間おきに3〜7日間。
消化管出血** 80%以上 トラフ因子レベルを40%以上に保つように12〜24時間おきに。止血しても3〜7日間継続。 消化管壁内出血に対してもこの方法に準じる。関節手術に準じて持続輸注を選択してもよい。入院にて行い、原因の検索を行う。
閉塞のおそれのある
気道出血**
消化管出血に準じて行う。 入院にて行う。
皮下出血
※大きな血腫や頸部、
顔面
原則不要
20〜40%
症状に応じて12〜24時間おきに1〜3日間。 気道圧迫の恐れがある場合は気道出血の補充療法に準じ、入院加療を考慮する。
鼻出血
※止血困難時
原則不要
20〜40%
症状に応じて12〜24時間おきに1〜3日間。 局所処置とトラネキサム酸1回15〜25mg/kgを1日3〜4回内服か1回10mg/kgを1日3〜4回静注を優先する。
肉眼的血尿
※止血困難時
原則不要
40〜60%
症状に応じて12〜24時間おきに1〜3日間。 安静臥床と多めの水分摂取(あるいは補液)を行い、原因検索を行う。トラネキサム酸の使用は禁忌。
頭蓋内出血** 100%以上 トラフ因子レベルを50%以上保つように少なくとも7日間続ける。 入院治療とする。持続輸注が望ましい。
乳幼児の頭部打撲** 50〜100% 速やかに1回輸注し、必要に応じてCTスキャン検査を行う。 CTスキャン検査で頭蓋内出血が否定された場合でも2日間は注意深く観察を行う。乳幼児の頭蓋内出血の初期は典型的な症状を呈することが少ないので注意を要する。
骨折** 100%以上 トラフ因子レベルを50%以上保つように少なくとも7日間続ける。 関節手術に準じて持続輸注を選択してもよい。上下肢の骨折では血腫によるコンパートメント症候群の発症に留意する。
外傷:ごく軽微な切創

※それ以外**
口腔内出血、皮下出血、鼻出血の補充療法に準じる。

骨折の補充療法に準じる。
軽微な外傷以外は入院治療とする。
コンパートメント
症候群**
関節内出血(重度)に準じて行う。 整形外科紹介が必要。
**専門医のいる施設、または専門医に相談の上で対応できる施設への入院が望ましい。
日本血栓止血学会, インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成委員会:インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版

定期補充療法

出血した場合の補助的な治療(RICE処置)