血友病とは

血友病と遺伝

【監修】医療法人財団 荻窪病院 血液凝固科
鈴木 隆史 先生

血友病と遺伝

DNAと染色体

人間の皮膚や目の色など、その人の特徴は「遺伝子」に設計図として書かれていて、それは親から子に遺伝します。

人間の設計図は、A、T、G、Cの4つの「塩基」と呼ばれる記号の組み合わせでできています。4つの塩基がずらっと鎖のように並んだものを「DNA」と呼び、人間のDNAは約30億個の塩基からなっています。DNAは普段、1本の鎖が2本組み合わさるような構造をしていて、この構造を「二重らせん」といいます。DNAは人間のほぼすべての細胞の(核の)中に存在していますが、せまい細胞の中に押し込めるために、二重らせんの鎖を23個に分けて折りたたんだ「染色体」と呼ばれる構造になっています。

人間は、父親と母親からそれぞれDNAを引き継いで生まれます。そのため人間の身体の中には父親由来のDNAと、母親由来のDNAが対になって存在しています。そしてそれぞれが染色体となっているため、人間は染色体を23対、合計46個(23×2)持っていることになります。

遺伝子と性染色体

DNAが折りたたまれた染色体の中には、皮膚の色を決める遺伝子や性別を決める遺伝子、そして血液凝固因子を作るための遺伝子など、さまざまな遺伝子が含まれています。

これらの遺伝子が、23対46個の染色体のうちどの染色体に存在しているかはそれぞれの遺伝子によって異なります。

染色体のうち、性別を決める遺伝子が存在する染色体のことを「性染色体」と呼びます。性染色体は形が違うものが2種類あり、その形からそれぞれ「X染色体」、「Y染色体」と呼ばれます。実は血液凝固因子を作る遺伝子は性染色体に存在し、その中でも「X染色体」にだけ存在します。このことが、血友病患者さんのほとんどが男性であることの理由になっています。

遺伝のしくみ

人間は23個の染色体を対になって46個(23×2)持っています。

しかし、父親、母親からそれらの染色体をすべて受け継いでしまうと、子どもは23×4個持ち、その孫は23×8個…とどんどん増えてしまいます。そのため、父親から精子が作られる際、母親から卵子が作られる際に、対になっている染色体のうちどちらか1つだけを残すという過程(減数分裂)があります。つまり精子と卵子には、染色体はそれぞれ23個しかありません。このため、精子と卵子が受精して生まれた子どもは、父親や母親と同じ数の23×2個の染色体を持つことができるのです。

人間は性染色体も対になって2個持ちますが、それがX染色体とY染色体の組み合わせ(XY)だと「男性」に、X染色体とX染色体の組み合わせ(XX)だと「女性」になります。そのため、減数分裂の際に男性から作られる精子にはX染色体を持つものと、Y染色体を持つものがあり、女性から作られる卵子にはX染色体しかありません。そしてX染色体を持つ卵子が、X染色体を持つ精子と受精すると「女性(XX)」が、Y染色体を持つ精子と受精すると「男性(XY)」が生まれることになります。

子どもの性染色体

女性
X X
男性 X XX XX
Y XY XY

子どもは親の性染色体を1つずつ受け継ぎます。

血友病と保因者の染色体

血液凝固第VIII(8)因子と第IX(9)因子を作る遺伝子はX染色体にあります。血友病の人は、第VIII因子あるいは第IX因子を作る遺伝子が他の人と少し違うので、第VIII因子あるいは第IX因子がきちんとはたらかず、血液が固まりにくくなっています。

このように第VIII因子、第IX因子をうまく作れない遺伝子を持ったX染色体を「X’」として表すことにします。すると、血友病の男性が持っている性染色体は「X’Y」と表すことができます。女性はX染色体を2つ持っていますので、血友病に関連する女性の性染色体は「XX’」と「X’X’」の2パターン考えられます。

血縁関係にある人同士の結婚などにより、まれに「X’X’」の性染色体を持って生まれてきた場合は「女性の血友病」になります。一方、「保因者」と呼ばれる「XX’」の性染色体を持つ女性の場合、多くは出血に関しては血友病でない人と同じ生活を送ることが可能です。しかし中には血友病と診断されるくらい血液凝固因子活性が低く、手術、外傷や分娩のときに不足している血液凝固因子を補充する必要がある場合があります。

「XX’」の性染色体を持つ保因者の女性は、卵子の性染色体が「X」か「X’」ですので、1/2の確率で血液凝固因子をうまく作れない遺伝子が、子どもに受け継がれることになります。そのため子どもが男の子の場合は、1/2の確率で性染色体が「X’Y」となって血友病になる可能性があります。

血友病の遺伝パターン

  1. 血友病の男性✕女性の場合

    女性
    X X
    血友病
    男性
    X’ XX’
    (保因者 女性)
    XX’
    (保因者 女性)
    Y XY XY
  2. 男性✕保因者の女性の場合

    保因者 女性
    X X’
    男性 X XX XX’
    (保因者 女性)
    Y XY X’Y
    (血友病 男性)
  3. 血友病の男性✕保因者の女性の場合

    保因者 女性
    X X’
    血友病
    男性
    X’ XX’
    (保因者 女性)
    X’X’
    (血友病 女性)
    Y XY X’Y
    (血友病 男性)
  4. 男性✕血友病の女性の場合

    血友病 女性
    X’ X’
    男性 X XX’
    (保因者 女性)
    XX’
    (保因者 女性)
    Y X’Y
    (血友病 男性)
    X’Y
    (血友病 男性)
  5. 血友病の男性✕血友病の女性の場合

    血友病 女性
    X’ X’
    血友病
    男性
    X’ X’X’
    (血友病 女性)
    X’X’
    (血友病 女性)
    Y X’Y
    (血友病 男性)
    X’Y
    (血友病 男性)
  6. 必ずしもこの結果通りになるとは限らないため、あくまで参考として考えてください。また、保因者には「確定保因者」と「推定保因者」がいます。血液中の凝固因子活性を測る検査や、状況に応じて遺伝子検査で推定保因者を診断することもできますが、必ずしも絶対的な診断はできません。

突然変異

血友病となる遺伝子は、親から子へ代々受け継がれていくわけですが、血友病の人の親が必ずその遺伝子を持っているとは限りません。

というのも、DNAはとても変化しやすく、突然変異が起きて、ある時から急に血液凝固因子を作る遺伝子が変化してしまうことも少なくないからです。DNAが変化しやすいのは、一見悪いことのように思われがちですが、このように変化しやすいからこそ、人間をはじめ生物は進化でき、多様性に富んでいるといわれています。

肌や目の色、血液型が人によって違うのと同じで、血液凝固因子を作る能力も人によって違うのがあたり前なのです。

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