血友病とは

保因者診断の検査方法とタイミング

【監修】東京医科大学 臨床検査医学分野 講師
篠澤 圭子 先生

保因者診断の検査方法とタイミング

家族や血縁者の情報の整理

はじめに、保因者かどうかを知るには、 家族や親戚の情報を確認することが大切です。血友病患者さん、出血が止まりにくい人などが家族や親戚にいないか、またどのような血縁関係にあたるかを確認しましょう。

このように、家族歴や家系の調査から、確定保因者であることが判明する場合もあり、保因者診断のための検査をする必要がなくなります。

医療機関においても、家族歴の聞き取り、家系調査、家系図を描くことは、保因者診断の基本になっているので、協力しましょう。

保因者診断の検査方法

血液凝固検査(凝固因子活性の検査)

保因者は、保因者でない人に比べて凝固因子活性が低い傾向があるため、 凝固因子活性を調べ、保因者の可能性が高いかどうかを判断するのが、血液凝固検査です。

血液凝固検査は全国の病院で保険診療で受けられます。ただし、凝固因子活性は、個人差があり、月経周期や運動、炎症などさまざまな要因に影響されて変動します。ゆえに、異なった日時に3回の採血をして検査することが推奨されますが、それでも、凝固因子活性が「高い」または「低い」という推定はできても、 保因者かどうかの判定まではできません。

凝固因子活性が「低い」場合には「保因者である可能性が高いと思われる」と判定できますが、反対に、凝固因子活性が「高い」場合には「保因者ではない(非保因者)」ということは決して判定できないので、注意が必要です。

遺伝学的検査(遺伝子解析による検査)

遺伝子を解析して、血友病の原因となる遺伝子変異があるかどうかを検出する検査です。

血友病の遺伝子変異は多くの種類があり、家系ごとに異なります。患者さんの遺伝子変異と同じものが、保因者かどうかを知りたい人にあるかどうかを調べる検査なので、同じ家系の患者さんの同意と協力が必要になります。

血液凝固検査に比べると、遺伝学的検査は信頼性は高いです。しかし、残念ながら、絶対的に判定ができる検査ではありません。例えば、患者さんの遺伝子変異が見つからなかったり、保因者かどうかを知りたい人の遺伝子変異がわずかな変異である場合だったりすると、必ず診断できるとは限りません。

遺伝学的検査

特に、「遺伝子変異が検出されなかった」場合は、それが「保因者ではない」という絶対的な判定にはならないということを理解してください。

遺伝学的検査は、高度な遺伝子解析技術や特殊な解析装置が必要で、解析までの時間を要することや、高額な費用や経費なども、「研究」の一環として行われており、多くの課題があります(2023年4月現在)。
(東京医科大学 臨床検査医学分野 血液凝固異常症遺伝子研究寄附講座)

保因者診断を受ける時期は?

保因者診断は、本人の意思により受けることが原則です。保因者や保因者診断について十分理解できていない場合は、正しい知識を得て、考えることができるようになってから受けるようにしましょう。

特に遺伝学的検査は、検査を受ける本人だけでなく、家族や血縁者にも関わることですので、慎重に行うべきです。ただ、血液凝固検査に関しては、凝固因子活性が低い場合、月経量が多くて(月経過多)悩む人もいるので、初潮が始まる前に行うのがよいかもしれません。

いずれにしても、医療者と十分に相談した上で受けることが望まれます。

もし保因者と確定診断されたら ―心構え

しっかり考えた上で保因者診断を受けても、保因者と確定されたときには強いストレスを感じ、後ろ向きに考えてしまう気持ちが出てくるかもしれません。

そのようなときは、保因者診断を受けたことにより、「保因者であることを正確に知ることができた」というように、前向きにとらえて考えてみてください。

正確に知ったことにより、より一層、具体的に

①「血友病の赤ちゃんを出産する可能性を自覚し、赤ちゃんのために安全を確保することができる」
②「自分自身の血液の凝固機能を確認することができ、術後出血、産後出血の止血管理ができる」

と、しっかりした心構えができることと思います。

血友病医療は日々発展しており、将来はさらに進歩し、患者さんの生活の質(QOL)が向上していることでしょう。それでも、血友病が遺伝性の病気であることは変わらず、保因者の精神的な負担をすべて解決することにはならないのかもしれません。

しかし、血友病医療の前進とともに、医療者は保因者支援に積極的に取り組んでいます。まずは、保因者の医療機関へのアクセスが第一歩になると思います。

明るい将来を見据えて、医療者とともに、結婚、妊娠、出産などの、現在そして将来のライフステージについて考えていきましょう。

保因者診断について

家族と考える保因者